久しぶり。
本当に久しぶりに、一冊の小説を読み終えた。
かれこれ5年ぶりくらいでは。いくらなんでもそんなことは無いか。でも気分的にはそんな感じ。
『ことり』小川洋子
事の始めは、Instagramだった。
フォローしている方がこの本の世界を、“まるで滝本晃司の世界だ”と評していた。
そういえば私も小川洋子さんは大好きで、一時期よく読んでいた。好きな作品は『人質の朗読会』と『薬指の標本』。特に『薬指の標本』にはどこか滝本さんの世界を感じていた。少々狂気を孕んだ美しさがあって。
しばらく読んでなかったなぁと、早速購入。それが2020年3月半ばのこと。
ところがそれからがなかなか読めない。電車の中ではついついスマホゲームをやりがち。自宅でも読む時間が無い。職場の昼休みは寝てばかり。
これについてはちょっと思うところがあるのだけど、ここでは割愛。
紆余曲折あって、やっと電車の中で本を読む習慣を取り戻した。
最初は絶望的なシーンから。
そして主人公“ことりの小父さん”の幼い頃からの物語が始まる。
よそから見れば“幸せ”とは言い切れない生活。
決して自分が一番になることのない家族。
次々といなくなっていく周囲のひとたち。
世間からの理不尽な扱い。
容赦なく忍び寄る老い。
それらが淡々と、静謐に、丁寧に描かれていく。
飴玉の包装紙をのばしたり、昼食をとったり、旅行鞄に荷物を詰めたり。そういった時間がゆっくりと過ぎていく。
このままこのひとは生き切るのかな……と思いながら読んで行くと、思いがけない出会いと事件が起こる。
それはとても自然で、且つ意外で痛快だった。人の終わりというのは、その数時間前でもどう転ぶかわからない。
そして最初に感じた“絶望”が、私の中で“光”に変わった。
この静かな爽快感。思わずため息が出る。
途中の描写もそうだけど、この感じも滝本さんの世界によく似ているように感じている。