熊猫日誌

熊猫の記憶の物置

ムーミンの思い出。

夫と何故かムーミンの話になった。

私たちが物心つく頃は、まだテレビが白黒だった。
昭和40年代半ばの話。
カラーテレビは世に出回り始めていたものの、20代の若い夫婦にはまだ高価だったのかもしれない。私は『ピュンピュン丸』や『ひみつのアッコちゃん』、そして『ムーミン』を、モノクロで楽しんでいた。

ところがある日、気付いてしまう。画面のピュンピュン丸やアッコちゃん、ムーミンには実は色があることを。
多分絵本か雑誌か、おもちゃ屋のポスターか何かを観たのだろう。
色付きで動くムーミンを観たい。きっとキレイだろうなぁ。

そこで私が思いついたのは、“テレビ画面に直接色を塗ること”だった。

クレヨンか色鉛筆で塗ろうとしていた。ガラス面にのるわけが無いのに。
そもそも間に合わない。画面右側に居たムーミンの色を塗ろうとしても、ヤツはすぐに中央に左側に歩いて行ってしまう。画面いっぱいに映っていても、すぐに遠くなってしまう。ノンノン(私の認識下ではムーミンのガールフレンドは“ノンノン”)の髪を塗ろうとしても、クレヨンを画面に向けた時点ですでにヘムレンさんに変わっている。

癇癪を起こして泣き叫んだ娘が、相当に憐れだったのだろう。我が家にカラーテレビがやってきたのは、それからまもなくだった。

そして奇しくもその日がムーミンの放送日。

......その日のことはあまり覚えていない。
かなり成長してから母にその日のことを尋ねたら、笑いながら教えてくれた。

ムーミンキレイねぇ、キレイねぇってご機嫌で観ていたんだけど、その日が最終回だったのよねぇ」

ポカーンとしていたらしい。
不憫だなぁ、私(幼児)。

でも間に合ったのだから、運は良い。
そしておそらく、再放送で繰り返し観てる。だからいいんだ。うん。

ちなみに『ムーミン』は1969年から1970年12月まで放送していたらしい。
放送終了当時で2歳……もう少し大きかったような気もする。
再放送だったか、もしくは1972年版だったのかも。それなら4歳くらいだから、画面に色を塗ろうと思い立つこともあるだろう。

いや、思いつくなよそんなこと。